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混沌じょのいこ。

だいじょうぶだ、おれはしょうきにもどった!

2012年全日本選手権「罵声」デマはいかにして広まったか

追記:言葉足らずなところがありましたので、コメント欄に補足してあります。


まずはじめに、この記事内容をデマの大元となったツイッター発言者、また羽生結弦選手及びそのファンの方々に対する攻撃材料として利用することを固くお断りいたします。これは私の知っている事実を、当時の流れを知らずにデマを信じている方に向けて発信する記事であり、アンチ同士の叩き合いの材料ではありません。一方が一方を攻撃するための道具に堕すれば、たちまち他方に向けての説得力は失われます。


さて、なぜ私が何年も経ったこの時期に、このような記事を書くに至ったかというと、いまだにこのデマが一人歩きをし、当時を知らない新しいファンの人々がそれを「そんなことがあったんですね!」と鵜呑みにしているのを見てしまったからです。
このデマ自体を知らない方のために説明いたしますと、2012年の全日本フィギュアスケート選手権で、「優勝した羽生結弦選手に対し、高橋大輔選手のファンから罵声が浴びせられた」というものです。
しかし実はそれは、会場に行っていた人たちのレポートではなく、またテレビを見ていた人が聞いたわけでもなく、その場にいなかった人の「高橋大輔選手のファンが、羽生選手に対してひどい言葉をかけたと聞きました」という内容のツイートから端を発していました。
これは伝聞の形ですが、一見すると「ひどい言葉をかけた」のを実際に「聞いた」ようにも読めます。そのためこれはツイッターであっという間に拡散しました。
これを疑問に思った実際に会場にいた人たちが、どのようなことを聞いたのか、また、誰から聞いたのか、ということを質問されていました。私も当時使っていたアカウントで、「お友達は会場でどのようなことを聞かれたのでしょうか」ということを質問した記憶があります。私に対する返信はありませんでしたが、一人の方に対して、こう返信されていました。

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「ネットのスケート版」とは2ちゃんねるのスケート板のことでしょう。人からの「伝聞」ですらありませんでした。匿名掲示板で目にした内容を、脊髄反射的に呟いたものが拡散されてしまったのです。デマの拡散にありがちなパターンです。
しかも間の悪いことに、拡散の多さに驚いたこの方は、この直後にアカウントに鍵をかけてしまいました。こうなるともう、「ソースは2ちゃんねる」であるということも他の人には伝わりません。こうして「ひどい言葉をかけたと聞きました」という内容だけが多くの人の記憶に残っていったのです。
これだけなら、「嘘を嘘と見抜けない人は云々」というひろゆきの言葉を引用して終わるところです。ところがこの件は、これだけで終わりませんでした。ことあるごとに、高橋選手及びそのファンを叩くための材料として、また高橋・羽生両選手のファン同士の対立煽りの材料として持ち出され、尾ひれをつけて語られるようになったのです。
更に、どういう意図があるのかわかりませんが、海外のスケート関係者に向けてメールやFacebookで「高橋大輔選手のファンが羽生結弦選手に罵声を浴びせた」と伝える人々まで現れ、そのことを海外関係者が放送で言う事態にまでなりました。更にどういう伝言ゲームなのか、ニースの世界選手権表彰式で起こった現地フランス人観客によるブーイング(低い声でブーーーと言ったり指笛を吹いたりする、欧米の典型的なブーイングです)を、ずっと後になってから「日本から来た高橋大輔ファンがパトリック選手に向けたブーイング」であると言い出す海外関係者まで出てくる始末でした。
ここまで来ると、最初の発信源がツイッターの伝聞であること、また実はそれは伝聞ですらなく匿名掲示板を鵜呑みにしただけだということなど、誰も知りません。それらの海外関係者発言は、海外の解説者が言っているのだから事実なのだろう、という新たなソースになってしまったのです。
そしてそれはついに日本のメディアにも載りました。「羽生選手が高橋選手のファンから罵声を浴びせられて引退も考えたこともあるという」という共同通信の記事が新聞に出たのです。この記事もまた伝聞の形であり、自ら記者が取材したものではありませんでした。
ところで、実はこれは日本のメディアで「罵声」の件が語られた最初の記事ではありません。では最初は何かというと、青嶋ひろの氏の書かれた文章です。内容はやはり、高橋大輔ファンの心ない言葉にスケートをやめようと思った、というものです。おそらく共同通信はこれをソースにしたのでしょう。しかしこれもまた、彼女自身が書いた「文章」であって、インタビューで羽生選手自身の発言として載っているわけではありませんでした。

…ここで私の、青嶋ひろの氏についての私見を語らせて頂きますと、彼女の文章は選手に対する「なのだろう」「はずだ」系の思い込みが激しく、また天然なのか炎上を狙っているのかわかりませんが、とにかく選手同士の比較が多い。一方を褒めるためにもう一方の粗探しのようなことをする。というか、選手への「苦言」的なことを書くためにわざわざ他選手を引き合いに出す。これでは悪く書かれた方はもとより、引き合いに出された方のファンもいい気はしません。「罵声」の記事も、彼女の悪い癖が出たなあ、と当時は思っていました。その数ヶ月後に、その彼女の文章をソースにしたとしか思えない記事が新聞に載るまでは。
ここで念のために書いておきますが、羽生選手に対する「心ない言葉」が無い、とは言いません。それはネットを検索すればいくらでも見つかります。選手本人がエゴサーチで見つけてしまうことも、また誰かから知らされることもあるでしょう。それによって自信をなくし、現役をやめたいと思ってしまうのも無理もないことですし、それを馴染みのライターにこっそり愚痴ってしまうこともあるでしょう。
しかしそれを、特定の選手名を出し、あたかも集団と集団の争いを引き起こそうとするかのような形で記事にする、青嶋ひろの氏の文章には誠実さがまるで感じられませんし、炎上だろうが話題になればよかろうの悪しきネット記事の典型にしか見えません。

そしてまた、ネット上でアンチの心ない発言があるということと、全日本の会場で罵声があったのかということは別問題です。
あの大きな会場で選手の耳に届くほどの罵声であれば、多くの観客が耳にしていたはずです。集団ブーイングならばなおさらです。(ある年のJOで数人の人たちがジャッジに罵声を浴びせた時には、それに関するレポートがツイッターに溢れました)ところが例の「〜と聞きました」ツイート以前に、「全日本で罵声があった」とレポートしている人はありません。拡散後も、現地にいた人たちはそんなことは聞いていないと言っています。
ここで言いたいのは、会場でのファンの「落胆の声」でも、隣や後ろの席から聞こえる「大きめの独り言」でもなく、はっきりと選手に向けての「罵声」はあったのかどうか、ということです。それは「〜と聞きました」という伝聞でしかなく、更にその「聞いた」というのは実はあの、スレタイ一覧を見ただけで気分が悪くなる2ちゃんねるのスケート板の無責任な書き込みを目にしただけだったのです。


さて、ここまで書きました。自分がこれまで目にしてきた、「罵声」デマが一人歩きをして尾鰭がついていく様子は以上です。
実はこれまでにも二度、ツイッターで「この話の出どころは2ちゃんねるの書き込みだと発信者が言ってるよ」ということをスクショ画像つきで流したことがあります。一度目は当時使っていたアカウントで、何人かの方の目には留めて頂けたようです。が、その中の一人がRTではなくスクショ画像を転載し、羽生選手のファンを批判するツイートと共に載せていたのを見てブチ切れてアカウント自体を消してしまいました。
「おめーーー!!それをやったら!!肝心の!!デマを信じてる層には絶っっ対に届かねーだろーがよーーー!!!」
ってね。最初に注意書きを書いたのはそういうことがあったからです。
二回目はそれなりに多くのフォロワーさんがいる、高橋さんの画像を発信するアカウントからでした。この時はさすがに一度目よりも多くの方の目に留めて頂けました。が、やはり高橋ファンの間だけでぐるぐる回っているだけで、外に向けての拡散力はありませんでした。

デマはあっという間に拡散しますが、デマを訂正する内容はデマをデマと知っている人の間だけでぐるぐる回り、「デマを信じている人」の元へは届かない。震災以降、福島県民としてさんざん味わった歯痒い思いを、この件でも味わいました。

もう、違うんだよそれ〜と内輪でぶつぶつ言い合っているだけではどうしようもありません。三度目の正直です。青嶋氏の件などで若干感情的になりましたが、できる限り誠実でわかりやすい文章を心がけました。この記事が、多くの人の目に留めて頂けることを願っています。