胸の薔薇は枯れず

……王子さまが目をさますと、そこは星空の下の砂漠でした。蛇はうそをついたのでしょうか。

「あら、やっと気がついたのね」
声がしました。王子さまが、ずっと聞きたかった薔薇の声でした。
「きみ、どうしてここにいるの」
王子さまはびっくりして叫びました。
「だってあたし、あなただけの薔薇だもの。ずっといたのよ、あなたのそばに。その胸の中に」
そうでした。この薔薇は、王子さまがずっとずっと大切にしてきた、王子さまだけの薔薇でした。世界じゅうに何百、何千、薔薇があっても、この薔薇は王子さまだけの薔薇でした。
「あなたがあたしを思い出して、会いたいと思ってくれたから、こうしてまた会えたのよ」
思えば、薔薇から離れたくて旅に出た王子さまでした。薔薇はきれいで、いっしょにいるととても幸せな気持ちになれましたが、でもわがままで、気まぐれで、王子さまの気持ちもわかってくれていないような気がして、なんだか王子さまはさびしくなってしまったのでした。
けれども、いろいろな星をめぐって、いろいろな人たちと出会った王子さまがほんとうに会いたかったのは、この、王子さまだけの薔薇だったのです。
「ねえきみ、これからも、ずっといっしょにいれくれる?」
王子さまは言いました。
「そうねえ、あなたがいたいと思うなら、いてあげてもいいかしら」
その薔薇の返事が、ほんとうに薔薇らしくて、王子さまは思わず笑いました。
これからぼくは、薔薇といっしょにどこまでも行くんだ。王子さまは思いました。
それはなんと幸せな旅でしょう。ときには、薔薇のわがままで困ってしまったり、けんかもしたりするでしょう。それでもひとりで見る景色とは、すべてが違って見えることでしょう。世界はひとりでめぐっていたときより、そしてあの小さな星で思うようにならない薔薇の世話をしていたときより、ずっと、ずっと、広くて、美しくかがやくことでしょう。
東の空がゆっくりと明けていきます。その光をあびて、薔薇の花びらが朝露をきらめかせるのを、王子さまはほほえんで見つめていました。


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高橋大輔氏がダンスパフォーマンスの舞台に立つと聞いて、その新たな世界の広がりにワクワクしました。そして軸足はあくまでもスケートにあるという発言への喜び。この人はこれから、スケートと、あらゆるものを自由に融合させていくに違いない、という確信。

思えば、愛と感謝そのものだったビートルズメドレーも、届かぬ想いに苦しむブエノスアイレスの冬も、失恋してやさぐれてさまようキッシングユーも、そして星の王子さまのバラへの想いも、全部その「想い」の向かう先は、彼が一番愛して、一番大切なもの、スケートそのものなんだな、とずっと感じていました。

そんなわけで、無事に薔薇と再会し、旅はこれからが本番だぜ!

Bon Voyage!!